個人事業主や中小企業の会社役員が使える節税対策としてよく挙げられるのが「iDeCo」と「小規模企業共済」です。
どちらも掛金が全額所得控除になる有効な節税対策ですが、よく知らずに加入すると逆に損をすることも……。
そこでこの記事では、下記ついて解説します。
- iDeCoと小規模企業共済の違いは?
- 各制度のメリット・デメリットは?
- 災害など”万が一”のときはどうなるの?
小規模企業共済とiDeCoの違い
小規模企業共済とiDeCoは、どちらも自営業者が利用できる老後資金対策の一種です。
iDeCoは会社員や公務員でも加入できるのに対し、小規模企業共済は個人事業主か中小企業の役員しか利用できません。
項目 | iDeCo | 小規模企業共済 |
加入資格 | 65歳未満の国民年金の被保険者 | 従業員が20人以下(※)の個人事業主や会社の役員 ※一定の業種を除くサービス業などは5人以下 ※※会社員の副業では加入できない |
掛金 | 自営業者は月6.8万円まで、会社役員は最大で月2.3万円 (加入資格区分によって上限額が異なる) |
月1,000円〜7万円まで |
掛金の運用者 | 加入者自身 | 中小機構 |
受取方法 | 60歳以降から一括、分割、一括と分割の併用(※)で受け取れる ※併用の可否は証券会社によって異なる |
廃業などを理由とした解約により、一括、分割、一括と分割の併用で受け取れる |
税金の優遇措置 |
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実施主体 | 国民年金基金連合 | 独立行政法人中小企業基盤整備機構 |
どちらの制度も拠出・受取の両方で控除が受けられ、節税メリットが大きいのがポイントです。
第一号被保険者が入れる制度には「付加年金」や「国民年金基金」もありますが、受け取り方法に「一括」を選択できるのは今のところiDeCoと小規模企業共済のみです。
(注)iDeCoの掛金上限は国民年金基金との合算。
小規模企業共済とiDeCoのメリット・デメリット
節税面ではほぼ同等のメリットがあるiDeCoと小規模企業共済ですが、細かい部分で異なります。ここでは両制度のメリット・デメリットを順に詳しく解説します。
小規模企業共済のメリットとデメリット
小規模企業共済の予定利率は、2021年現在1.0%です。利率は変動するため、加入次点で利率が固定されてしまう国民年金基金よりはまだインフレに対応していますね。
また、廃業の場合は掛金が100%戻ってくる点と、もしものときに借り入れができる点もメリット。
年払いでの前納もできるため、年末駆け込みの節税対策としても使えます。
短期間で解約すると、掛け捨てや元本割れのリスクがある点には注意が必要です。
iDeCoのメリットとデメリット
iDeCoでは、投資信託などを使って自分で掛金を運用します。NISAと同様に資産運用の優遇措置の側面が強い制度といえるでしょう。
iDeCoは一度始めると途中で解約することが難しく、また継続している限り手数料がかかる点に注意が必要です。
iDeCoについては「iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?仕組みやデメリットをわかりやすく解説」で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
「災害時は?」「海外移住したら?」各制度のよくある質問
iDeCoも小規模企業共済も長期的な加入が前提ですが、人生には何があるかわかりません。
そこで「こんなときはどうなるの?」という”よくある質問”に答えます。
Q1.「災害の被災者になってしまったら?」
<小規模企業共済>
被害を受けた地域の契約者は、無金利または低金利で災害時貸付が受けられます(対象の災害や貸付の概要については中小機構HPの「災害にかかる共済契約者対策について」で公表)。
また、掛金の納付期限延長や減額、廃業を決めた場合は共済金の申請など柔軟に対応できます。
<iDeCo>
特例措置として積み立ての一時停止などができます。
ただしiDeCoは脱退一時金の条件が厳しいため、原則として掛金は引き出せないと考えたほうがよいでしょう。
Q2.「途中で解約したくなったら?」
解約は任意で可能です。12カ月以上継続して掛金を納付していれば、掛金の80%以上が解約手当金として戻ってきます。ただし解約手当金は一時所得の扱いになり、その年に得た他の一時所得と合算されますので注意してください。
原則として解約はできません。国民年金保険料を免除されているなど、一定の条件を満たしていれば脱退は可能ですが、条件が厳しいため該当する人は少ないでしょう(参考:iDeCo公式サイト「脱退一時金」より)。脱退は難しくても、掛金の拠出を止められます。その場合「運用指図者」として資産の運用指示だけ行います。
Q3.「契約者が亡くなったら?」
小規模企業共済もiDeCoも、遺族へ一時金が支給されます。一時金はみなし財産扱いのため、相続税の申告対象です。
小規模企業共済は掛金以上の金額が遺族へ支払われますが、iDeCoは運用状況により元本割れした金額になる可能性があります。
Q4.「海外で暮らすことになったら?」
海外への移住は解約事由にあたりませんので、加入を継続できます。しかし仕事の状況によっては節税メリットが薄れるでしょう。なお海外移住に際して廃業する場合は、共済金が受け取れます。
原則として加入資格を失い、拠出ができなくなります。しかし、非居住者になるだけでは脱退条件を満たさないため、運用指図者として積み立ててきた掛金の運用を続けます。
iDeCoと小規模企業共済は併用できる
iDeCoと小規模企業共済は併用できます。
両方に加入した場合、個人事業主なら最大で月額13.8万円、年間165.6万円が控除できます。中小企業の法人役員の場合、最大で月額9.3万円、年間111.6万円です。
ただし、いくら節税効果が高くても金額設定は慎重にしましょう。
というのも、
例えば小規模企業共済へ掛金7万円で12カ月納付し、その後に3万円へ掛金を減額した場合、それまで積み立ててきた4万円×12カ月=48万円は以降の運用からはずされます。
ただお金を預けているだけの状態になり、1円も金利がつきません。(詳しくはこちらのサイトを参考にしてください)
「ふるさと納税」や「生命保険料控除」など個人でできる節税対策は他にもあるため、それらと組み合わせて無理のない額を積み立てましょう。
どちらか一方なら小規模企業共済がおすすめ
併用できるとはいえ、一方しか加入する余裕がない場合はどちらを選べばよいのでしょうか?
個人事業主なら、小規模企業共済がおすすめです。
- 任意解約できる
- 貸付制度がある
- 掛金を納め続ければ元本割れはない
iDeCoより柔軟性があり、もしものときに頼りになります。
一方で会社役員の場合、退職金として受け取る以外は節税する方法がないため(解約一時金は個人の所得になる)、個人事業主よりも小規模企業共済の優先度は下がるでしょう。
まとめ
小規模企業共済もiDeCoも、掛金が全額所得控除になる節税効果の高い制度です。
- 転ばぬ先の杖として使うなら小規模企業共済
- 資産運用で積極的に老後資金を準備したいならiDeCo
併用して利用できますが、どちらか一方なら柔軟性の高い小規模企業共済をおすすめします。
なお、資産運用をしたいのであればNISAもおすすめです。
iDeCoとNISAの違いについては「iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?仕組みやデメリットをわかりやすく解説」で解説していますので、ぜひご覧ください。
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