脱炭素の流れを受け、世界中で開発が進んでいる小型原子炉(SMR)。その市場規模は、2026年には113億ドル、日本円にして約1兆2900億円にまで拡大するとも言われています(参考:PR TIMES「小型モジュール炉の市場規模、2026年に113億米ドル到達予測」より)。
福島第一原発の事故があって以降、原子力発電には厳しい目が向けられてきました。しかし近年、安全性・経済性の優れた小型原子炉の登場で見直される動きがでてきています。
今回は、脱炭素化の切り札になるかもしれない小型原子炉の関連銘柄について紹介します。
小型原子炉(小型モジュール原子炉)の関連銘柄とは?
小型原子炉の関連銘柄とは、小型原子炉を開発したり、開発を手掛けるベンチャー企業に出資したりしている企業の銘柄を指します。
小型原子炉とは、小型モジュール原子炉やSMR(Small Modular Reactor)とも呼ばれる小型の原子炉のこと。小型原子炉の特徴は以下の通りです。
- 従来の1000MW規模の原子炉に対し、小型原子炉の発電量は300MW以下
- 複数台を設置し、必要な発電量を確保する
- 体積に対して表面積が大きいため、冷えやすい
- 工場で生産できる
- 周囲に大規模なインフラ設備が不要
例えば、すでに米原子力規制委員会から承認を得ている米国NuScale Power社の小型原子炉は、炉心全体がプールに浸かっており、冷却ポンプを必要としません。水なしでも自然冷却が可能なため、万が一のときも従来の原発のように冷却できなくなる心配がなく、高い安全性を実現しています。
また、あらかじめ工場で生産した部材を現地に運んで組み立てる工法で作るため、大幅なコスト削減が可能。
小型原子炉は、安全面・コスト面で優れた新しい原子力技術なのです。
小型原子炉が注目される背景に”脱炭素”
小型原子炉が注目される背景には、脱炭素、カーボンニュートラルの加速があります。
すでにアメリカ、カナダ、英国、中国、ロシアといった国々は、カーボンニュートラルを実現する次世代のエネルギーとして小型原子炉の開発支援や建設に意欲的です。またEUでも、2021年に原子力をEUタクソノミー(EUのカーボンニュートラル目標に貢献する事業のリスト・基準)として認めました。
日本においては、経済産業省が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で「原子力を活用しつつ、安全性に優れた次世代炉の開発を進める」としています。2018年の資源エネルギー庁の資料でも、エネルギーミックス(電源構成)のなかに原子力は含まれています。
脱炭素化を進める手段の1つとして、安全性の高い小型原子炉が世界で求められているわけです。
ただし、今のところ日本で小型原子炉が新設される見通しは立っていません。
災害大国の日本では、福島第一原発事故があって以降、依然として国民から原子力発電に疑いの目が向けられています。いくら従来のものよりも安全性が高いといっても、信頼性を得るには時間がかかるでしょう。
そのため、日本企業の関係する小型原子炉は海外展開が中心となります。
小型原子炉の関連銘柄一覧
上述した通り、日本での小型原子炉関連銘柄は、海外への導入や海外メーカーへの出資をしている企業がメインです。
証券コード |
銘柄名 |
特徴 |
1963 | 日揮ホールディングス | NuScale社へ出資 |
6501 | 日立製作所 | GEと提携し、日立GEニュークリア・エナジーを設立 |
6502 | 東芝 | 子会社の東芝エネルギーシステムズが小型原子炉を開発 |
7011 | 三菱重工業 | 小型原子炉を開発 |
7013 | IHI | NuScale社へ出資 |
上記のうち、いくつかの銘柄について詳しく紹介します。
※情報は2021年11月時点のものです。
日揮ホールディングス(1963)
- 市場:東証1部(建設業)
- 株価:1,084円
- PER/PBR:–倍/0.6倍
- 予想配当利回り:1.38%(3月)
海外で発電や化学プラントなどを手掛ける大手。小型原子炉の先駆者である米国NuScale Power社(非上場)に出資しています。小型原子炉銘柄としてまず名前の上がる代表格ともいえるでしょう。
しかしながらここ数年の業績は厳しく、直近は最終赤字となっています。買いで入るなら、業績・チャートの反転を確認してからでも遅くないかもしれません。
日立製作所(6501)
- 市場:東証1部(電気機器)
- 株価:7,272円
- PER/PBR:12.79倍/1.84倍
- 予想配当利回り:1.44%(3月、9月)
GEと提携し、米国にGE日立ニュークリア・エナジーを、日本に日立GEニュークリア・エナジーを設立。小型軽水炉BWRX-300、軽水冷却高速炉RBWR,小型液体金属冷却高速炉PRISMの3つの新型炉の開発を進めています。
日立製作所の業績が好調のため、株価は上昇中です。
三菱重工業(7011)
- 市場:東証1部(電気機器)
- 株価:2,833.5円
- PER/PBR:9.51倍/0.69倍
- 予想配当利回り:3.18%(3月、9月)
三菱重工は、2020年12月に一体型小型原子炉の概念設計を完了したと発表。また2021年6月には国内の電力大手と小型原子炉の初期設計の協議に入ったと報道されました。これまでの技術と知見を元に、船舶向けや離島向けなどへの展開などを目指すとのことです。
航空機事業などの不調で業績は厳しい状況ですが、水素製造などの他の脱炭素テーマとも絡んでいる銘柄のため、今後の動向に注目です。
原子力関連の米国ETF(NLR)
小型原子炉については日本よりも欧米のほうが進んでいます。そこで海外ETFで投資できるものがないか探してみました。
結論から言うとそのものズバリのETFはなく、投資するなら原子力関連ETFになります。
- NLR(VanEck Uranium+Nuclear Energy ETF)
- URNM(NorthShore Global Uranium Mining ETF)
- URA(Global X Uranium ETF)
上記のうち、SBI証券・楽天証券から購入できるのはNLRのみです。
- 名称:ヴァンエック・ウラン+原子力エネルギーETF
- ティッカー:NLR
- 市場:NYSE
- 経費率:0.6%
- 分配金利回り:1.94%
- 連動指数:DAXglobal原子エネルギー指数(DXNE)
DXNEは全世界の原子エネルギー産業の上場企業により構成される修正時価総額加重指数です。
ETFの構成銘柄TOP5は、以下の通り。
- DOMINION ENERGY INC ORD 7.79 %
- DUKE ENERGY CORP ORD 7.69 %
- EXELON CORP ORD 6.97 %
- PUBLIC SERVICE ENTERPRISE GROUP INC ORD 6.41 %
- FORTUM OYJ ORD 5.56 %
1位のドミニオン・エナジーは米国の電力や天然ガスの会社。2位のデューク・エナジーも北中南米で事業を展開するエネルギー会社です。構成銘柄には電力・公共事業の会社が多く、日本企業も関西電力などが入っています。
つまり、小型原子炉というより、原子力発電に関わっている企業のETFですね。
株価は……というと、低迷中です。割安ではあるものの、近年の米国市場の盛り上がりから完全に置いていかれている形です。
とはいえ小型原子炉の実用化が進めば、構成銘柄にも反映される可能性があります。
まとめ
脱炭素の流れが加速するなかで、安全面とコスト面を両立できる小型原子炉(SMR)の開発が進んでいます。
関連銘柄の時価総額が大きく、また多岐にわたる事業を手掛ける企業がメインになるため、小型原子炉だけで株価が上がる…とは現時点では言えない状況です。しかし、今後人気になる可能性を秘めた注目テーマではあるでしょう。
中長期的な投資対象として分析を進めておくと面白いかもしれません。
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