デフレのイメージが強い日本で、常に囁かれるインフレ懸念。
しかし”インフレ=景気に悪い”わけではありません。むしろ株にとってインフレは追い風といわれます。
今回は、インフレにより発生する事象やインフレに強いセクター、銘柄について紹介します。
株はインフレに強い?インフレが発生するとどうなるの?
一般的に、緩やかなインフレは株式市場にとって追い風と言われます。
というのも、物価の値段が上がれば企業の収益も上がりやすくなり、結果として企業の価値も上がりやすくなるためです。
「でも、インフレのニュースで株価が上がるとは限らないよね?」と疑問に感じるかもしれません。
インフレになると、以下のことが発生します。
- 現金の希薄化
- 金利上昇
- 人件費や原材料費の上昇
株価にポジティブなことばかりではないため、インフレで素直に株価が上がるとは限りません。各事象について詳しく解説します。
①現金の希薄化で現物資産が強くなる
物価が上昇するインフレでは、現金が希薄化します。
例えば「100円で買えたジュースが105円に値上げされる」ということは、裏を返せば100円の価値がジュース1本分以下まで落ちたということ。
つまり、インフレになると現金の価値が薄くなるわけです。
現金のまま置いておくだけでは価値が下がる一方のため、インフレ下では商品や不動産など価値が上がりやすい他の物へ交換する動きが活発となります。
②金利が上昇する
インフレで物価の上昇が行き過ぎると、通貨の価値が下がって国民生活が不安定になります。そこで政府は、インフレになると金利が上昇させ、通貨価値の下落を阻止しようと動きます。
金利が上昇すれば、ローンを組んで家や車を買ったり、借金しての設備投資に回したりする動きにブレーキがかかりますよね。
巡り巡って「価格を下げないと物が売れない」状況となり、インフレが落ち着くわけです。
しかし、これは株価の上昇に水を差す行為です。
結果、インフレ→金利上昇の流れになると株価は一時的に調整に入りやすくなります。
③人件費や原材料費が上がる
インフレになると物の値段が上がるので、原材料費が上がります。また物価が上がれば生活費も上がるため、人を雇うコストも増えます。
よって、原材料費や人件費がコストの多くを占めるような企業は収益が圧迫されやすくなります。
インフレは株にポジティブとはいえ、すべてのセクターにとって追い風ではない点に留意すべきといえるでしょう。
インフレに強い業種・セクターを紹介
インフレが発生すると、将来の利益の期待先行で上がっているグロース株よりも、実需の強いバリュー株が強いと言われています。
具体的には次のような業種・セクターです。
つまり現物資産がある所が強いわけですね。
「保険会社はどうして?」と不思議に感じるかもしれませんが、保険会社は契約者から長期契約でお金を集めて運用し、その収益を将来的な保険料の支払いや会社の利益にあてています。金利が上昇して10年変動国債などの金利が上がれば、運用にはプラス。よってインフレはポジティブに働きやすいのです。
インフレに強い銘柄
インフレに強いと予想される銘柄を一覧にしました。
銘柄コード | 企業名 | 業種 |
8058 | 三菱商事 | 卸売業 |
8001 | 伊藤忠商事 | 卸売業 |
8031 | 三井物産 | 卸売業 |
8053 | 住友商事 | 卸売業 |
8002 | 丸紅 | 卸売業 |
5401 | 日本製鉄 | 鉄鋼業 |
5411 | JFEホールディングス | 鉄鋼業 |
5406 | 神戸製鉄所 | 鉄鋼業 |
8750 | 第一生命 | 保険業 |
7157 | ライフネット生命保険 | 保険業 |
1605 | INPEX | 鉱業 |
5713 | 住友金属鉱山 | 非鉄金属 |
8905 | イオンモール | 不動産 |
8801 | 三井不動産 | 不動産業 |
3289 | 東急不動産ホールディングス | 不動産 |
あくまで一例ですが、参考にしてください。
ここからは、上記のなかで特に注目できる銘柄を紹介します。なお情報はIRBankおよびSBI証券のサイトから取得しました。(2021年9月時点)
三菱商事(8058):総合商社の大手
- 市場:東証1部(卸売業)
- 配当利回り:3.68%(3月・9月配当)
- PER/PBR:9.27倍/0.96倍
言わずとしれた総合商社大手。原料資源、機械、食品など事業は多岐に渡ります。扱っているものがインフレで価値の上がるコモディティのため、三菱商事に限らず、総合商社はインフレで株価が上がる筆頭といえるでしょう。
日本の5大商社についてはバフェットが投資したことでも話題となりましたが、これもインフレとドル安対策だったと見られています。
日本製鉄(5401):粗鋼生産量が国内首位
- 市場:東証1部(鉄鋼業)
- 配当利回り:5.81%(3月・9月配当)
- PER/PBR:4.96倍/0.72倍
鉄鋼業はインフレで需要が増える業種です。原料高の影響も受けるため、原材料コストを販売価格に反映できるかがポイント。その点、日本製鉄は特殊な機能を付与した高価格帯の鉄板に軸足を移しつつあるため、インフレ対応が期待できます。
なお予想配当利回りは高いですが、減配や無配の期間も多い銘柄なので、配当株として買うのはおすすめしません。
第一生命ホールディングス(8750):契約者800万人の生保大手
- 市場:東証1部(保険業)
- 配当利回り:3.16%(3月配当)
- PER/PBR:9.19倍/0.56倍
海外への事業拡大にも積極的な生保大手。直近では有価証券の売却益が想定より上がって好調のようです。保険業はインフレ下では強い業種のため、第一生命のような大手生保は期待できます。
安定した増配を続ける高配当株としても有名な銘柄です。2021年9月時点では株価が上昇してしまって配当のうまみは薄いですが、ウォッチリストに入れておいて損はないでしょう。
INPEX(1605):原油・ガス開発生産の国内最大手
- 市場:東証1部(保険業)
- 配当利回り:5.06%(6月・12月配当)
- PER/PBR:6.8倍/0.39倍
旧社名は国際石油開発帝石。国内外で原油・ガス開発を手掛けており、インフレ→原油価格上昇→販売価格上昇と、インフレのポジティブな影響を受けやすいといえます。また配当についても前向き姿勢。
とはいえ長期的にずっと右肩下がりのため、下手な高値掴みは避けたい銘柄かもしれません。
イオンモール(8905)
- 市場:東証1部(不動産業)
- 配当利回り:2.94%(2月・8月配当)
- PER/PBR:12.71倍/1.03倍
ショッピングセンターのイメージがありますが、実は商業施設メインの不動産業に分類されます。中国や東南アジアを中心に海外展開も積極的です。
コロナ禍で大打撃を受けましたが、回復しつつあるようです。インフレという面でみると、ゆるやかなインフレで土地価格や商品価格が上がることはポジティブに働きます。
REITや海外株、金にも注目しよう
個別銘柄を紹介してきましたが、もっと大きな視点でみればREITや海外株、金もインフレ対策として効果的です。
日本円がインフレで希薄化するなら、海外の通貨に変えた方がリスクヘッジになります。そして海外通貨が希薄化するなら、海外株に変えておけばインフレ分をヘッジしやすいというわけです。
また、不動産に投資するREITや現物資産の金やプラチナなどの貴金属も選択肢に入るでしょう。
ちなみに貴金属投資についてはこちらの記事で紹介しているので参考にしてください。
関連記事:純金・銀・プラチナ・パラジウムへ手軽に投資!貴金属ETFと投資信託を紹介
リスクが怖いなら10年変動国債
インフレリスクを軽減するという意味では、10年変動国債もおすすめです。
一般的に預金や固定金利の国債はインフレに弱い資産。しかし、変動金利の場合は別です。
個人向け国債の10年物は金利が変動のため、インフレで金利が上昇すれば、その上昇した金利に追従できます。
金利がインフレ率を超える…とは言えませんが、元本保証なのでリスクが取れない人には逃避先として有効です。
まとめ
インフレに強いセクターや銘柄、資産を紹介しました。
インフレは株に追い風ですが、一緒に金利上昇などが発生するため、株価は短期的には複雑に動きます。
- 国内外のバリュー株
- 金などのコモディティ
- 不動産
低金利の環境で脚光を浴びてきたグロース株だけでなく、上記のような資産にも意識して分散投資をすることがインフレ対策になるといえるでしょう。
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