事業再生ADRとは?持ち株が申請したら株価はどうなるの?

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「持ち株の一つが事業再生ADRを申請したらしい!でもADRってなに?上場廃止になっちゃうの?」

不況や災害発生時に増える事業再生ADR。

結論を言ってしまうと、事業再生ADRを申請しただけでは上場廃止にはなりません。しかし、好ましい状況でもありません。

この記事で次のことがわかります。

  • 事業再生ADRとは何か
  • 事業再生ADRで上場廃止になってしまうのか?
  • かつて事業再生ADRが発動した銘柄は、今どうなっているのか?
  • 最近、事業再生ADRを申請した銘柄は?株価はどうなっているのか?

事業再生ADRを上場廃止の危機と捉える人もいれば、超割安で仕込めるチャンスと考える人もいます。その理由にも触れますので、参考にしてください。

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事業再生ADRとは?

事業再生ADR:経営が傾いて資金繰りに行き詰まった企業が、公平な第三者機関を挟んで債権者と協議し、事業再生を目指す方法のこと

「ADR=裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)」の略です。

事業再生の方法には、当事者同士で話し合う私的整理と裁判所を挟む法的整理がありますが、事業再生ADRはちょうどこの間に位置する方法です。

ざっくり言えば、倒産しそうな企業が、債権者に返済を一時停止・免除して貰えないか第三者を挟んでお願いする手続きですね。

ちなみに「ADR=米国市場で売買できる米国外の代替証券(American Depositary Receipts)」とは別物です。

事業再生ADR申請の流れ

事業再生ADRの流れは次のようになります。

  1. 第三者機関である「事業再生実務家協会」に申請
  2. 事業再生計画を作成
  3. 債権者会議による協議・決議
  4. すべての債権者が同意すれば事業再生ADRが成立

申請するだけでは成立せず、事業再生計画と債権者の同意が必要です。また、同意は「すべての債権者」が条件のため、一人でも反対したら不成立となり法的整理に移ります。

なお法的整理になった場合、例外はあるものの、原則として上場廃止になります。

事業再生ADRには公表義務はない

事業再生ADRには公表義務はないため「事業再生ADR銘柄一覧」のようなものはありません。

しかし、債務超過状態の企業が申請するものなので、証券会社の銘柄ページには「取引注意」マークが付き、「継続企業注記銘柄」として名前が上がっているはずです。

知らずに買ってしまうことは少ないでしょう。

ただし、債務超過ギリギリといった微妙な状態のときにはこのマークは付きません。

買った途端に事業再生ADR発動とならないように、株を買う前には「過剰債務になっていないか」くらいは確認することをおすすめします。

自己資本比率をみるのが手っ取り早いでしょう。時系列でみたときに、自己資本比率が右肩下がりになっている企業は要注意。IRをよく確認してください。

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事業再生ADRで上場廃止!とは限らないが……

持ち株が事業再生ADRを申請すると「倒産!?上場廃止!?」と不安になりますよね。大丈夫です。すぐに上場廃止にはなりません。

というのも東証には上場廃止基準があり、事業再生ADRを申請だけではそれに抵触しないためです。

東証1部と2部の上場廃止基準は、債務超過、時価総額10億円未満、有価証券報告書の遅延や虚偽といったものです。(各市場の詳しい上場廃止基準については、東証のサイトをご覧ください)

ただし、事業再生ADR申請銘柄の場合、次のパターンになると上場廃止の危機です。

  • 株価が低迷し、時価総額が10億円以下になったとき
  • 事業再生ADR後も債務超過が解消できなかったとき
  • 事業再生ADRが成立せず、法的整理となったとき(例外はある)

上場廃止となれば株価はそれこそ底なし沼!上記のパターンには注意しましょう!

逆に言うと、時価総額を10億円以上に維持したまま再生へ舵を切れれば、上場廃止は免れるわけです。

事業再生ADR銘柄を好んで取引する投資家がいるのも「上場廃止にならなければ安く仕込むチャンス」と言えるからですね。

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事業再生ADR銘柄の前例

事業再生ADRを申請する企業の数はそう多くないものの、珍しいわけでもありません。過去に事業再生ADRを申請した銘柄を見てみましょう。

【上場維持】曙ブレーキ(7238)

曙ブレーキは、その名の通り自動車部品のブレーキを製造している会社です。

米国事業が失敗し、経営が悪化。2019年に事業再生ADRを申請しました。その結果、560億円の巨額の債権放棄が成立。経営体制を新たにして再出発となりました。(参考:日経新聞より

株価は低迷中ですが、取引注意マークも消え、上場廃止は免れた形です。

【上場廃止】大和システム

マンション開発を手掛けていた大和システムは、2010年6月に事業再生ADRを申請、受理されました。

しかし、事業再生の途中でスポンサーが抜けて資金繰りが悪化。10月に法的整理となり、上場廃止および倒産しました。(参考:日経新聞より

大和システムの例をみるに、たとえ事業再生ADRが成立してたとしても、その後の再生がうまく行かなければただの延命にしかならず、結局は上場廃止に追い込まれると言えます。

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最近の事業再生ADR申請銘柄

もっと最近になって事業再生ADRを申請した銘柄も見てみましょう。

UMCエレクトロニクス(6615)

車載機器や産業機器を主力とするEMS(電子機器受託製造サービス)企業のUMCエレクトロニクス。

2019年に粉飾決算を発表し、東証に違約金を支払うことになりました。

  • 決算をやり直した結果、大幅な赤字へ転落
  • 2021年1月に事業再生ADR成立
  • 2021年3月にトヨタを含む数社へ第三者割当増資を実施(参考:日経新聞より

市場からは強力なスポンサーが付いたと判断されたのか、増資をきっかけに株価は浮上しています。

事業再生ADRを申請するような銘柄の株価は、ほぼ右肩下がりの悲惨な状況になっているのがお決まりですが、その後の値動きはバックについてくれる企業がいるかどうかがポイントだと言えそうです。

ヴィアHD(ヴィアホールディングス)(7918)

焼き鳥店やカフェを手掛け、株主優待銘柄としても人気だったヴィアHD。

元から怪しかった業績が、2020年のパンデミックで急速に悪化し、2020年12月に事業再生ADRを申請しました。(参考:東京商工リサーチより

決議は2021年4月20日に行われる予定。ここで債権者から同意が得られれば、事業再生ADRの成立です。

開示情報によると次のような状況になっています。

  • メインバンクのりそな銀行が69億円のキャッシュを融資
  • 社長が退任し、りそな銀行の取締役が社長に就任

りそな銀行の元で事業再生を目指すことになるかと推測します。

株価は2020年から右肩下がりとなっていたため、事業再生ADRを発表してもあまり下がっていません。

外食産業は今後も厳しい状況が続くと見られるため、どのように立て直していくのか注目されます。

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まとめ:事業再生ADRになると株価はどうなる?

事業再生ADRとは、債務超過に陥った企業が、第三者機関を挟んで債権者と協議し、事業再生を目指す方法です。

事業再生ADRを申請した企業の株価は、次のような値動きをする傾向があります。

  • 右肩下がりに落ち続けた株価が、事業再生ADRの発表で一旦の大底につく
  • その後は長期で低迷しやすい
  • 事業再生の兆しが見えれば、悪材料出尽くしの中でのポジティブ材料として浮上する可能性もある

「事業再生ADRの発表でPTSがストップ安」のような値動きになることもあります。しかし長期でみると、事業再生ADRで暴落というよりは、その前から下げていた株価が最後のダメ押しで下げるパターンが多いようです。

事業再生がうまくいく前提で考えれば「大底の安い株価で仕込める」とも言えるため、好んで事業再生ADR銘柄を買う投資家もいます。

しかし「事業再生ADRでほぼ大底だ!」と安易に買いで入るのはハイリスクです!

事業再生がうまく行かずに債務超過が続くと上場廃止基準に抵触しますし、法的整理に移行するとやはり上場廃止の可能性が高まります。

事業再生ADR後に浮上した銘柄をみると「本業に価値を見出してスポンサーになってくれる企業がある」など期待できる材料が出ています。本当に事業再生の青写真が描けるかが重要です。

すでにホルダーの方も、慌てて損切りする必要はないとはいえ、開示情報には注意したほうが良いでしょう。

なお事業再生ADRになるような銘柄は、取引注意銘柄として証券会社の銘柄ページにマークがつくことが多いため、買うときにはよく確認してくださいね!

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